電気自動車海上輸送時の安全対策
船舶の火災安全対策はSOLAS条約において規定されており、これまで大規模な火災事故が発生するたびに改正が重ねられてきました。2023年現在SOLAS条約で規定されている自動車運搬船の火災安全対策については以下のリンク先の資料に纏めています。
2023年現在SOLAS条約で規定されている自動車運搬船の火災安全措置
現在就航中の、ガソリンを燃料とする自動車を主に運搬する大型の自動車運搬船においても、車両積載区域での火災事故が近年複数件発生している状況を踏まえ、国土交通省を中心として、同種事故発生時の被害軽減を目的に安全対策の検討が行われました。この検討結果として本会では「大型自動車運搬船における火災事故発生時の被害低減に向けた改善措置について ~固定式泡消火装置の効果的使用に向けて~」と題し、テクニカルインフォメーションTEC-1239を2021年に発行しております。
TEC-1239
一方で、近年、船舶による電気自動車の輸送機会が増加傾向にあります。国際エネルギー機関(IEA)によると、2021年末時点の電気自動車登録台数は、指数関数的に増加しており(図1参照)、登録台数の将来予測も同様に指数関数的に増加する見込みです(図2参照)。こうした状況に鑑みると、電気自動車の安全輸送に対する取り組みを早急に開始する必要があります。
図1:電気自動車の2021年末時点の登録台数(出典:IEA Report Global Electric Vehicle Outlook 2022)
図2:電気自動車登録台数の将来予測(出典:IEA Report Global Electric Vehicle Outlook 2022)
電気自動車安全輸送に向けた国際的な動き
電気自動車の輸送機会の増加に伴い、電気自動車の安全輸送のための指針などを公表している主管庁等があります。また、国際海事機関(IMO)において、電気自動車を含む新エネルギー自動車の火災安全要件に関する審議が,2027年の終了を目標に2024年3月開催予定の第10回船舶設備小委員会(SSE10)より議論を開始する予定です。
電気自動車安全輸送に向けた本会の取り組み
国際条約による新たな規制の制定には長い期間を要することから、すでに始まっている電気自動車の輸送に対する火災安全対策を先行して取り組むことが望まれています。 そこで、本会は電気自動車の安全輸送に貢献するために、文献調査をはじめ専門家、運航者及びメーカー等関係者へのヒアリングを行い、以下の事項をガイドラインとしてまとめました。
・電気自動車火災の特徴
火災対策を構築する上で必要な、電気自動車、特に駆動用バッテリー(リチウムイオン電池)の基礎的な知識、情報及び火災特性を整理しました。
・電気自動車火災対策
電気自動車火災に有効性があると考えられる対策について、これから火災対策を構築される方々にとって有益な情報となるよう整理しました。
ガイドライン・リストの活用方法
ガイドラインの目的は、電気自動車の輸送に対する火災安全対策を先行して構築し、電気自動車の海上輸送の安全性強化の一助となることです。
ガイドラインには本会で検討した電気自動車火災への対応指針を示しています。更に、本会で検討した対策事項を「電気自動車火災対策リスト」として掲載しています。ガイドライン及び当該リストを参考にして電気自動車火災の留意すべき事項を十分に理解していただき、火災の進展及び規模に応じた設備及び機器等を組み合わせることで、効果的で総合的な消火対策を立案することが期待されます。
現時点で電気自動車の火災対策として確定的な消火装置等は実用化されておらず、追加の火災対策は運航者や船舶管理会社によっても方針等に様々なものがあります。そのため、本ガイドラインでは特定設備の設置要求を規定せず、各社が電気自動車の安全輸送のために自主的に構築した火災対策をガイドラインの考え方に沿って検証し、有効な対策を講じた船舶にNotationを付与するものです。
・ 電気自動車火災対策検討リスト (最終更新: 2023年10月)
IMO審議動向
第7回船舶設備小委員会(SSE7) (2020年3月開催)
中国から、電気自動車を含む新エネルギー自動車 (以下、新エネルギー自動車)を積載する船舶の火災安全要件に関する提案文書を提出。(SSE7/6/6、SSE7/6/7及びSSE7/INF.11)
第104回海上安全委員会(MSC104) (2021年10月開催)
中国から、新エネルギー自動車 を積載する船舶の火災安全要件に関する新規作業計画の提案文書を提出。(MSC 104/15/19)
第105回海上安全委員会(MSC105) (2022年4月開催)
新エネルギー自動車 を積載する船舶の火災安全要件に関する審議を開始することに合意し、SOLAS条約及びFSS Codeの改正を2028年1月に発効することを目標。
第9回船舶設備小委員会(SSE9) (2023年2月開催)
・日本から、高膨張泡消火装置(アウトサイドエア)を用いたリチウムイオン電池自動車火災に関するの試験結果を提出。(SSE9/INF.4)
・中国から、新エネルギー自動車の輸送に関する情報を提出(SSE9/INF.6)
第107回海上安全委員会(MSC107) (2023年6月開催)
・2027年終了を目標に新エネルギー自動車の火災安全要件に関する議題を二カ年計画(2024年から2025年まで)に含めることに合意。
・新エネルギー自動車 を積載する船舶の火災安全要件に関する議題を第10回船舶消防設備委員会の議題に含めることに合意。
第10回船舶設備小委員会(SSE10) (2024年3月開催予定)
新エネルギー自動車 を積載する船舶の火災安全要件に関する審議を開始する予定。