Approval in Principle (AiP)
近年、海事産業においては、環境規制やデジタル化、また周辺領域における技術革新の動きを受け、さまざまな新技術の開発、実装が進められています。一方で、新規のコンセプトを有する技術の実装にあっては、その技術が国際条約や船級規則で規定されるレベルの安全性を確保できることが求められており、本会はそのような観点から技術の審査を行っています。
本会が行う設計の審査は、本来は新技術が製品として設計を完了した段階で実施されるのが通例です。しかしながら、設計が完了した段階で国際条約、船級規則の観点での致命的な課題が発見された場合、それは設計の後戻りを引き起こし、ひいては技術開発のスピードを大きく阻害することになります。そのような事態を防ぐため、本会は船級としての最終的な設計審査に先立ち、設計初期の段階あるいは特定の実装対象船が決定するより前の段階で、製品の設計を確認するサービスを提供しています。
AiPとは?
AiPとは、Approval in Principle「基本設計承認」の略称であり、設計初期の段階の製品に対して、規則類の規定に基づく図面の審査を行い、規則類の観点での技術的な実現可能性を確認するスキームです。
AiPの対象としては、一般には新規に開発が進められる技術や、海事産業での実績の少ない技術に対して多く適用されており、例えば以下のような製品のコンセプトが挙げられます。(あくまでも一例であり、対象をこれに限るものではありません。)
- 【船舶等の例】
- 代替燃料船(LNG、LPG、メタノール、アンモニア、水素等)
- 特殊液化ガス運搬船(液化水素、液化CO2等)
- 自動運航船/自律運航船
- オフショア浮体設備(FPSO、FLNG、FSRU、洋上プラント等)
- 【設備、システムの例】
- 液化ガス貨物/燃料格納設備
- 風力補助推進装置/風力補助推進船
- 燃料供給システム
- ガス改質システム
本スキームにおいて、申込者は概ね基本設計レベルの設計図書を本会へ提出し、本会は申込者と合意された枠組みに基づき図書の審査を行い、実現可能性が確認された製品に対して AiP証書を発行します。
AiPで確認されるのは設計初期段階の「実現可能性」であるため、これが最終的な図面承認に直結するものではありませんが、申込者はこの段階を経ることによって、規則類の思想に基づく課題を設計初期の段階において洗い出すとともに、その後の最終的な図面承認を取得するためにクリアすべき設計の要点を整理することができます。従って、最終的な図面承認を目指すための設計作業を効率的に進めるための有効なスキームといえます。

承認の枠組み
AiPは、規則類への完全な適合を証明するものではないため、その枠組みは参照される規則類の規定を参考に、対象となる製品の設計段階や申込者の要望を考慮して協議の上で決定されます。AiPの枠組みは、一般に以下のような手順で決定されます。
(1) 製品の仕様の確認
(2) 参照規則類の決定
(3) 承認対象範囲の決定
必要図書
AiPのスキームにおいて確認が必要な図書類は、申込者と合意された承認の枠組みに応じて決定されます。必要な図書類は合意内容に応じて変わりますが、一般に以下の内容を含んだものとなります。
(1) 製品の仕様に係る資料
(2) 製品の技術的検討に係る資料
(3) リスク評価に係る資料
参考として、いくつかの製品を例に、AiPの必要図書の具体例を以下に示します。
表1 代替燃料船の基本設計承認図書例
1 | 船舶の基本仕様書 |
---|---|
2 | 代替燃料関連設備の基本仕様書 |
3 | 一般配置図 |
4 | 機関室配置図 |
5 | 代替燃料配管系統図 |
6 | 危険場所明示図 |
7 | 通風系統図 |
8 | 消火及び防火設備図 |
9 | 縦強度及び非損傷時復原性計算書 |
10 | リスク評価に係る資料 |
表2 バッテリー推進船の基本設計承認図書例
1 | 船舶の基本仕様書 |
---|---|
2 | バッテリー設備の基本仕様書 |
3 | エネルギーマネジメントシステムの基本仕様書 |
4 | 一般配置図 |
5 | 機関室配置図 |
6 | バッテリー室配置図 |
7 | 電力系統図 |
8 | 危険場所明示図 |
9 | 消火及び防火設備図 |
10 | 縦強度及び非損傷時復原性計算書 |
11 | リスク評価に係る資料 |
表3 オフショア浮体設備の基本設計承認図書例
1 | 浮体設備の基本仕様書 |
---|---|
2 | 一般配置図 |
3 | 中央横断面図 |
4 | 船体及び係留設備の構造解析方案 |
5 | 縦強度及び非損傷時復原性計算書 |
6 | トップサイド設備の設計基本条項 |
7 | トップサイド設備の機器リスト |
8 | トップサイド設備のプロセスフローダイアグラム |
9 | 危険場所明示図 |
10 | 消火及び防火設備図 |
11 | 通常時及び緊急時のオペレーション思想 |
12 | リスク評価に係る資料 |
表4 風力推進装置の基本設計承認図書例
1 | 装置の基本仕様書 |
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2 | 全体組立図 |
3 | 詳細構造図 |
4 | 構造解析方案(代表的な荷重条件に関する試解析結果を含む) |
5 | 駆動装置構造図 |
6 | 動力系統図 |
7 | 通常時及び緊急時のオペレーション思想 |
8 | リスク評価に係る資料(船舶への影響に関する考察を含む) |
その他AiPのスキームに関する詳細は、*基本設計承認及び一般設計承認に関するガイドライン(第1.0版)を参照ください。本ガイドラインは、本会ホームページにてマイページのユーザー登録をすることにより、マイページの「ガイドライン」のページでご覧いただけます。
AiP採用の傾向と承認実績
LNG/LPG/メタノール燃料船
LNG/LPG/メタノール燃料のように既にこれらを燃料としている船舶が就航しており、基本設計から詳細設計への展開が比較的円滑に進捗するようになった代替燃料については、実装プロジェクトとしてAiPの取得の段階を経ずに設計承認が行われることが多くなりました。メタノール燃料では、メタノール運搬メタノール燃料船だけでなく、メタノール焚きバルクキャリアやコンテナ船の設計も計画されています。
アンモニア燃料船
現在進められているアンモニア焚きエンジンの開発と並行して、アンモニア燃料をエンジンに供給するシステムとそれらを搭載する船舶の設計が進められています。アンモニアは強い毒性や腐食性がありますので、設計の初期段階から実現可能性を確認するために、本会の「代替燃料船ガイドライン(メタノール/エタノール/LPG/アンモニア)」を基に、船内での安全な取扱いの確認や詳細設計での検討事項の洗い出しを行った上でAiPを発行しています。また、既存の燃料を使用する船舶に対し、将来のゼロエミッション化に向けたアンモニアへの燃料転換のための改造を想定して、予め概念設計を準備しておく「アンモニアReady」のAiPも発行しています。
水素燃料船及び水素燃料電池船
水素燃料の使用は、燃料電池を搭載する内航小型船で既に実現しています。将来の大型船への脱炭素燃料の使用に向けて、水素焚きエンジンの開発も進められています。水素はその物性から特に材料の水素脆化、漏洩、火災等に対する安全対策が求められます。また、燃料の大量貯蔵のために水素を液化して船内で使用する場合は、-253℃という極低温域での材料の耐性や周囲の空気(窒素、酸素等)の液化に対する安全対策も求められます。今後水素焚きエンジンの開発が進めば、搭載する船舶の実現可能性を確認するためにAiP取得のご要望も増加するものと予想されます。
CO2運搬船及びCarbon Capture
陸上の発電所等から回収したCO2を海上運送するプロジェクトが活発化しており、それに伴い、液化CO2運搬船のAiP発行も増加しています。また、陸上のCO2回収技術を基に、船舶から排出されるCO2を船内で回収する装置も開発されています。今後、CO2回収設備に加え、液化、貯蔵設備を船内に搭載した船舶の実現可能性を確認するために、AiP取得のご要望も増加するものと予想されます。
風力補助推進船
GHG排出削減技術の一つとして、再生可能エネルギーである風の力を利用して船舶の推進力を補助する装置が開発され、既に実用化が始まっています。この風力補助推進装置には、硬翼帆、カイト,ローターセイル等の方式が開発されており、それらのシステムを甲板上に搭載する船舶に対し、本会の「風力を利用した船舶補助推進装置の設計に関するガイドライン」を基に実現可能性を確認した上で、AiPを発行しています。また、上記の代替燃料の使用と風力補助推進装置を組み合わせた船舶も計画されています。
これまでに公表されているAiPの実績を、下表に示します。
お申込み、サービスに関するお問い合わせ
日本海事協会 技術本部 技術部
Tel: 03-5226-2042(代)
Fax: 03-5226-2736
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